REPORT "Backstage Pass to Rhizomatiks / ONLINE"

2020年9月15日(火)、SCARTS x SIAF LAB. アートエンジニアリングスクール(AES)のプログラムのひとつである、制作の裏側/バックステージの見学授業「BackstagePass(バックステージパス)」が開催されました。1回目は、ライゾマティクスのスタジオへオンラインで訪問です。作品が生まれた現場の様子を、レポートでお伝えします!レポーターは、SIAF部に所属している行天フキコさんです。


ゲスト講師は、ライゾマティクスディレクター、アーティストでありエンジニアでもある石橋素(いしばし もとい)さん。今回の見学授業では、日々の制作現場として使われている東京・恵比寿のスタジオ内を、カメラを持った石橋さんの生解説付きでご案内いただきました。参加者は、事前に石橋さんの手掛けられた作品を予習し、参加しました。

制作からトラックまでスムーズな導線

カメラが映し出したのは、スチールラックがずらりと並んだストックスペース。どの棚にもコンテナボックスがびっしり収納されています。ボックスには、中に何が入っているのか書き込まれたラベル(Rhizomatiksのロゴ入り特製ラベルです)が貼り付けられているのが見えます。

はじめに案内していただいたのは、制作に使う機材を保管している場所です。スタジオの建物は2階建になっていて、出入り口からスタジオまで台車が通れる1本道が通り、片側にストックスペースが配置されています。天井高がある倉庫をリノベーションし、1階は作業スペースとスタジオ、2階は個人作業のスペースとして使っているそうです。

LANケーブル置き場には長さごとに格納されたボックスが並んでいるのですが、あまりに多いその量に驚きです。いっぺんに100本くらい使うこともあるとか。その他にも、LED電球、ドローンをしまってあるケースが所狭しと並んでいる様子が見えました。
「スタジオから制作に使う機材を木箱に入れて、トラックで出荷できるようにしています」と石橋さん。
ひとつの作品を制作するにも、本当にたくさんの機材や道具が必要なのですね…。

「スタジオにはグリーンバック、可動トラスを設置しています。高さがあるのでドローンの動作テストもできます。」
案内の途中で見かけるスタジオのセットや、日常ではなかなかお目にかかれない光造形で使用する3Dプリンター、作品で活躍した自走する台車など、画面に映り込む機材の数々も参加者が興味を惹かれる見どころです。

ボストンダイナミクス社が開発した四足歩行のロボットビッグドッグ(攻殻機動隊のタチコマに見えました…)を実際に動かして見せていただきました!

石橋さんに聞きたい!

後半は参加者から寄せられた質問に石橋さんが答える時間です。
美術や工学分野の学生さん、プログラマーやエンジニアとしてお仕事されている10〜40代の方が多く、「今後何をするべきか」など未来へ向けて現実的な質問が多く集まりました。

質問1 「独学で映像制作の勉強をしているのですが、技術的なリサーチはどのようにされていますか?」
石橋) 人に見せて反応があれば嬉しいし、その反応が大きな経験になったと感じています。反応を得られるようなことを積極的にやってみてはどうでしょう。

質問2 「常に新しいものを作り続けているRhizomatiks。新しい技術を習得するコツは?」
石橋) 年齢によって新しいものを習得する方法は違ってくるかと思います。30代まではとにかくやってみることが多かったのですが、40代からは今までの経験や知識を組み合わせて考えることが多くなりました。最近は、1週間くらいかけて新しい技術を習得に集中する時間を持つようにしています。

質問3 「アイデアが思いつかなくなるときはあるのでしょうか?」
石橋) 出来上がった作品だけ見るとわからないのですが、基本的には良いアイデアが出せなくて困っていることが多いです。本当は「こうしたいのに」といつも思うし、ベターなところでなんとかしていることもあります。それに、面白いことが全て良い結果になるということでもなくて、仕事であればまず相手の要求を満たすことが必要です。自分が良いと思っていても、相手からは「これはちょっと…」という反応が返ってくることもあります。難しいですが、表現としてどうかというと、アイデアや技術以外のまた違う基準があるのだと思います。

質問4 「学生です。映像制作にも関わりたいので勉強したいと思っています。将来のために今やっておくと良いことはありますか?」
石橋) 英語は勉強しておいて損はないです!映像やプログラミング以外でも、何をやるにしても役に立ちます。

質問5 「コロナ禍でパフォーマンスをする仕事や発信する側のやり方は、どう変化していくと思いますか?」
石橋) エンターテイメントのあり方は変わるのではないでしょうか。今は誰でもライブ配信ができて、それを視聴するのも当たり前になりました。配信の内容も、ライブじゃなくても楽しむことができるようになり、じゃあ、生放送の意味は何だろうと考えました。例えば、紅白歌合戦は、会場で観ている人もいますが、大多数がテレビ放送で観ていますよね。、ただ、同じものを観ている、共有して楽しんでいる、というところに高揚感があるのだと思います。ライブでも配信でも、同じように楽しめる時代が来るのだとしたら、自分が持っている技術でもっと良くできたらいいなと思っています

質問6 「札幌を舞台にやってみたいことはありますか?」
石橋) 雪まつりや大雪原にドローンを飛ばして作品を作ってみたいです!ただ、寒いのでマイナス気温にマシンが耐えられるか心配です…。

ラボメンバー) ぜひ、一緒に作品を作りましょう!

石橋さん、ありがとうございました!
詳しい解説付きのスタジオ見学は、設備や機材、道具の数々から、ライゾマティクスの作品がどれだけの試作と時間を積み重ねられて創られたかを垣間見ることができる、大変貴重な体験でした。
ライゾマティクの作品はYouTubeで視聴できるものもありますので、見学に参加できなかった方もぜひご覧いただき、新しいテクノロジー、音楽、映像とパフォーマンスが融合するライゾマティクスの世界に触れてみてはいかがでしょうか。

今後も「アートエンジニアリングスクール」では、エンジニアのネットワークを広げる活動に取り組んでいきます。
次回は山口県の山口情報芸術センター[YCAM]にオンラインでの訪問を予定しています。
みなさまお楽しみに!

文:行天フキコ(SIAF部)